大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和41年(く)13号 決定

抗告人 検察官

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告申立の理由は、札幌地方検察庁検察官検事佐藤哲雄名義の即時抗告申立書記載のとおりで、要するに、現に裁判所に保管中の保釈保証金の没取については、あらためて、民事訴訟法の準用による強制執行を必要としないから、裁判所又は裁判官の指揮によつて、国の歳入に編入する例外的取扱いをしているが(刑事訴訟法四七二条一項但書)、本件のように、没取の裁判後保釈保証金が提出者(申立人)に還付されて、裁判所の保管を離脱した場合には、右法条一項本文の本則にもどり、検察官の指揮によつて、右裁判の執行をするのが当然である、というのである。しかしながら、裁判所で保管中の保釈保証金については、その性質上、これに対する没取の裁判が告知によつてその内容を実現するための効力(広義の執行力)を生ずる(同法四二四条)と同時に、特段の執行行為を要せずして、右裁判内容に即した法律関係が形成される(すなわち、当該保証金の所有が国庫に帰属する。)ものと解するのが相当であつて(爾後の裁判所職員による国の歳入に編入するための手続は、没取金のいわば処分行為であつて、裁判の執行そのものではない。)、ひとたびかかる法律効果を生じた以上、その後においてたまたま何らかの事情により当該保証金が裁判所の保管を離脱した場合であつても、別途に新たな債務名義を得てするは格別、すでにその内容が実現されている右没取の裁判によつて再度執行を図ることは許されないというべきである。記録によれば、本件において、渡辺良雄(被告人)は、札幌高等裁判所の控訴棄却の判決後昭和四〇年四月二三日保釈保証金八万円で保釈を許可されたが、同年一〇月一九日上告棄却の判決があつて、同月二三日第一審の懲役六月の有罪判決が確定したところ、逃亡し、検察当局の捜査にもかかわらず所在不明で、刑の執行が不能となつたのである。そして、昭和四一年四月一四日札幌地方裁判所が、検察官の請求により、刑事訴訟法九六条三項に従つて、保釈保証金没取の決定をなしたところ、たまたま、同日午後九時頃渡辺良雄の所在が判明して収監、翌一五日から刑に服したので、同月一七日同人に対し右裁判の告知を了したのであるから、右金員の所在を追求して、再度没取の裁判の執行をすることは許されないと解される。従つて、原決定が、札幌地方検察庁検察官佐藤哲雄が申立人に対し昭和四一年七月一九日付納付告知書を以てなした保釈保証金の没取金八万円の納付命令による執行は許さないとしたのは結局正当で、抗告は理由がない。

よつて、刑事訴訟法四二六条第一項後段によつて、本件即時抗告をん棄却して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤勝雄 裁判官 中村義正 裁判官 半谷恭一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例